suzumayou’s diary

読書記録、作詞作曲、エレクトーン演奏、大人のヴァイオリン等

小説【季節の予感】第一回BGM著作&作曲:すず 作品NO.394~397

小説【季節の予感】第一回BGM著作&作曲:すず 作品NO.394~397

僕の名はジュン。純粋の純って漢字で書いて、ジュンっていうんだ。初夏の爽やかな風が吹き抜け、季節はあっという間にじめじめとした梅雨へと移り変わるころ、日本を離れ、毎年、アメリカにあるお母さんの実家へ遊びに行った。 そういえば、お母さんは作家なんだ。だから僕も本が大好きだけど、やっぱり外遊びの方が好きかな。僕も物語を作るのが得意って言われるけど、外で冒険する方がずっと面白いし、なんだか僕の血が騒ぐんだ!今日も僕は従兄弟のケンを引き連れて、カブトムシを取りに行く。家の近くには大きな森があって、まぁ、僕に言わせれば、”庭のようなもの!”だな。従兄弟のケンにとっては、初めての海外で、初めての場所だから、僕とおない齢だとは信じられないくらい、怖がってた。何処へ行くにも、僕の後ろをついて回る。まぁ、ケンにとっては全てが異世界みたいなんだろうな。言葉の問題もあるしなぁ。僕の場合は日本で暮らしていても、お母さんが時々英語で話しかけてくるから、何となく、喋れなくても何を言っているのか僕には分かるんだけど、ケンのやつは、全くだめで、こっちへ来てからは、近所のおじさんやおばさんたちに声を掛けられるたびに、僕の顔をちらっと見ては、おどおどしていたんだ。笑って、ハローって言っていればいいよ、って言うのに。「怖い」らしい。みんな、デカいからかなぁ。そんなケンに親切にしてあげてね、ってお母さんに言われ、素直に分かってるよ、って返事をして今日も一緒にカブトムシを探しに森の中へ入ったわけだ。都会育ちのケンにとって、広大な森の中は未知の世界のはず。その目には、どこを見ても不安げな色が浮かんでいた。森の奥に進むにつれ、僕の耳に聞こえるのは鳥のさえずりと自分たちの足音だけだった。この静けさが、なんだか面白いことをしたくなる気分にさせたんだ。僕は急に変にそわそわして、ケンを驚かせてみたいなって思っちゃった。森の地面はでこぼこ道で、所どころ大木の根っこが地面を這っている。

「ケン、足元を良~く見ろよ。木の根っこに足を引っかけて転ばないようにな!」

僕は後ろから付いてくるケンに声をかけた。

「うん、分かったよ」

より一層、地面に集中するケンの姿を認めた僕は、出来る限り音を立てないよう、小走りすると、さっと脇へ隠れ息をひそめる。いつもケンのやつ、僕が歩く速さについて来れず、「ジュ~ン、待ってくれよぉ」と僕を呼んでいた。都会育ちだからな、当然か。

まだ、僕が消えたことに気付かないのか。しーんと静まり返ったままだ。根っこが地面をうねうねした先は急斜面になっており、ケンの目には僕が突然消えたように映る筈だ。大木の陰に隠れた僕も、ちょっとケンの様子を見たくなり、そぉ~っと首を出した時だった。ケンは辺りを見回しながら、息を詰めた声でこう叫んだ。

「ジュン!何処へ行ったんだよ!」

「… 」

「ジュン!返事くらいしろよぉ...」

ケンの泣きべそかいた声がした。うひゃ~やったね! 僕は、くっ、くっ、くっ、と笑うと、スーパーヒーローみたいにケンの目の前へ躍り出た。

「ジャーン!正義の味方、ジュン登場!」

僕は虫網を持った右手を空へ向けると、白い歯を見せて笑った。

「何が正義の味方だよ… 意地悪しやがって。ジュンのママに言いつけてやる!」

ケンは相当怖かったのか、半べそかいたまま、まだ泣いている。

「お母さんには言わないでくれよ、頼むからさ」

と言いながら、僕はまだ泣き止まないで同じ場所に突っ立ったままでいるケンに向かって叫んだ。大体なんだ、森の丘に立つ僕の姿を見て、天使のように瞳をうるうるさせながら、「ジュンさまぁ~。助けに来て下さったのねぇ」とか、何とか、台詞を言うくらいの心の余裕ってもんを見せて欲しかったよ。何がママに言いつけるだ。だけど、ほんとにケンがお母さんに言いつけたことはないんだよなぁ。僕のいたずらに付き合ってくれる、心優しい従兄弟なんだ。

「ケン、僕たち、もう7歳なんだぞ!子猫みたいな泣き声でミャーミャー男が泣くなんて、みっともないぞ!早く行こうよ」

ケンは更に抗議の目を向けた。

「何が子猫だ! ミャーミャーなんて泣いてないよ」

そう言ったケンは、急に耳を澄ましている。確かにケンはすでに泣き止んでいる…よなぁ… じゃあ、なんだ? あれは本物の子猫の鳴き声なのか⁉

「なぁ、ジュン。子猫がどっかで鳴いてるよ。間違いない、小川の方かな…」

こんな時は全神経を集中だ!お母さんがよくやるヤツだ。うん、確かに。つい、さっきまでは小鳥の声しか聴こえていなかった筈なのに。小川の水の音と子猫が鳴く声が…しかも、どうやら一匹ではないらしい、数匹いるようだ… 僕の耳もしっかり捉えた。…とその時、

「誰かぁ!あの子たちを助けてぇ!」

女の子の声だ! 僕らは顔を見合わせた。ケンも同じように目を見開いている。心臓がドキドキと早くなる。

「ジュン、今のは… 女の子の声、聴こえなかったか?」

僕は大きく頷いた。

「ケン!行くぞ! きっと子猫に何か起こったんだ。僕らが助けなきゃ!」

言うが早いか、僕はもう駆け出していた。その後をケンが必死についてくる足音も、僕にはちゃんと聴こえていた。

 

つづく...